2017年11月24日金曜日

週末読書:米利回り曲線の「警告」、それでも楽観が根強い理由 (WSJ)

米利回り曲線の「警告」、それでも楽観が根強い理由


米国債の長短利回り差が、金融危機が本格化した2007年以来の水準に縮小している。だが、08年のような相場暴落が近いと懸念している投資家やエコノミストはほとんどいない。

 アナリストらは長らくこの利回り差、つまり利回り曲線の形状を経済の健全性を測るバロメーターと考えてきたが、現在の利回り曲線が何を意味するかについては意見が割れている。見解が一致しないのは過去10年にわたる異例な状況によるところが大きい。

この10年間、世界の主要中銀が緊急措置を講じる中、インフレは微々たるものにとどまり、失業率が下がる一方で賃金上昇圧力の兆しはほとんどない。また、株式市場では相場が上昇の一途をたどり、ボラティリティー(変動率)は極めて低い。

利回り曲線が同じように平たん化した直近の時期と比較すると、現在の経済状況は対照的で、その分不透明感も際立つ。短期利回りが長期利回りを上回る「逆イールド」となった06年と07年には、景気が過熱しつつあることを示す明確な兆しがあった。

当時、何年も上昇を続けてきた住宅価格は高すぎてもう持続不可能だと考えられていた。証券化商品が金融システム全体にリスクを拡散し、株価はレバレッジド・バイアウト(LBO)ブームによって下支えられた。

一方、現在は、景気が見たところ順調に推移しているにもかかわらず利回り曲線が平たん化している。世界主要国がそろってプラス成長を遂げるとの見通しや米減税による景気てこ入れ効果への期待を追い風に、株価は何度も最高値を更新している。こうした状況の中で平たん化が何を示唆しているかははっきりしない。

 一部の投資家は足元の利回り曲線の平たん化について、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策引き締めが行きすぎれば再びリセッション(景気後退)に陥りかねないことを伝えるシグナルだという従来の見方を支持している。

PGIMフィクスト・インカムのシニアポートフォリオマネジャー、マイケル・コリンズ氏は「市場はFRBに抵抗している。(FRBが利上げを続ければ)利回り曲線は平らになり、株式は売り込まれ、経済は打撃を受けるだろう」と述べた。

だが、景気減速の兆しがほとんどない中、これまでとは違う力が働いていると憶測する向きもある。FRBは債券買い入れでバランスシートを4兆5000億ドル(約500兆円)まで膨張させたものの、政策の目的だったインフレ加速には失敗した。

欧州中央銀行(ECB)と日本銀行が同様に消費者物価押し上げに向けて導入した金融政策が米金利を抑えている可能性もある。政策金利がゼロを下回る中で相対的に利回りの高い米国債に対する需要が高まっているため、本来であれば堅調な米成長見通しを反映して上昇しているはずの10年物米国債利回りは低下している。

政策担当者は、失業率がドットコム・バブル以降で最も低い水準となったことで雇用主は賃上げを迫られると予想していたため、特に時給の伸び悩みなどインフレ圧力がないことに困惑している。FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数の前年比上昇率は依然、目標の2%に届いていない。

 米政府発の不確実性も広がっている。17年初めに利回り曲線がスティープ化(長短金利差が拡大)したのは、ドナルド・トランプ大統領が公約として掲げるインフレ投資や法人税・個人税減税が実現するとの期待があったからでもある。当時、財政出動や減税を受けて経済成長やインフレが加速するとの見方が強まり、米国債の10年物利回りは14年以来の高水準となる2.609%をつけた。

スタンダード・チャータード銀行のマクロストラテジスト、イリヤ・ゴフシュテイン氏は「これらのことがどれも近いうちに実現しないことが明らかになったため、利回り曲線は平たん化している」と述べた。

 10年物と2年物の利回り差は22日時点で約59ベーシスポイント(bp)と、07年11月以降の最低水準に近い。年初時点では125bpだった。利回り差の縮小の大部分は、利上げ見通しの影響を受けやすい2年物利回りの上昇によるものだ。経済成長・インフレ期待を反映しがちな10年物利回りは16年末の2.446%から2.322%に低下している。

利回り曲線の平たん化で特に窮地に追い込まれているのは銀行株だ。大手米銀で構成されるKBWナスダック銀行指数は月初から約2.2%下落しており、S&P500種指数が約0.8%上昇しているのと対照的だ。利回り曲線がスティープ化すると、銀行融資の収益性は上がる傾向がある。低い金利で借り入れた短期資金を高い金利で長期融資に回せるからだ。

利回り曲線に影響を与えている要因は現在に特有のものかもしれないが、一部の投資家はそれでも「警告」に注意を払うべきだと指摘している。セントルイス地区連銀の資料によると、米国債の2年物利回りが10年物利回りを上回った過去6回の時期のうち、1年以内にリセッション入りしたのは5回だ。

 米国債投資家の多くは今後も利回り差の縮小が続くと予想している。T・ロウ・プライスのポートフォリオマネジャー、スティーブ・バルトリーニ氏はその理由の1つとして、FRB関係者らが利上げを続ける中で「目標を下回るインフレ率を進んで受け入れている」ように見える点を挙げた。米国債の10年物利回りは利上げ終了時点での政策金利近辺で頭打ちとなる傾向がある。同氏はこの水準を約2.25~2.50%とみている。

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