2017年11月11日土曜日

週末読書:日本株好調、楽観できる理由と懸念 アベノミクス始動以降の日本株の動きは米国株・欧州株と似ている(WSJ)

日本の熱狂がピークにあった1989年12月に日本株を買った投資家は、その後の27年間で最も間近な資金回収のチャンスを目にしている。少なくとも、配当を再投資したと仮定するとそうなる。日本の大手企業の株が80年代末のような形で上昇し続けたら、投資家は来年1月には黒字に戻っているかもしれない。


日本は欧米の投資家に多くの教訓を与えている。高齢化社会、中央銀行が根強いデフレと戦うことの難しさ、バブルがはじけたときの損失の規模に関する教訓だ。だが現在の日本株から得られる主な教訓は、政策がそれほどうまく機能していないように見える時でさえ大もうけできるということだ。

 安倍晋三氏は2012年に首相に選ばれると、インフレの再点火に乗り出し、企業のバランスシートに眠る現金の使途を改善させるべく、物静かな役員室に改革を迫った。

インフレの努力は成功していない。「アベノミクス」に対する当初の期待が消え、消費増税で一時的に物価が上昇した後は、食料とエネルギーを除いた「コアコアCPI」上昇率はゼロに戻っている。生鮮食品とエネルギーを除く日銀の新指標はわずかにプラスだが、2%の目標には遠く及ばない。日銀が過去5年に300兆円あまりの債券や株を買い入れているにもかかわらずだ。

企業が大量の現金をはき出しているかどうかも、明らかと言うにはほど遠い。昨年の自社株買いは12年の3倍に達し、取締役会がこれまでより積極的に株主の懸念に対処している兆しに見えた。だが ゴールドマン・サックス によると、今年は自社株買いが25%超減少している。コーポレートガバナンス(企業統治)は改善が続いてきたのにだ。企業の手元資金は減るどころか、安倍氏の選出以来40%増加し、昨年末には最大手500社の保有額が過去最大の106兆円に達した。

 配当は増加しているが、株価の上昇には追いついていない。東証株価指数(TOPIX)の配当利回りは昨年夏にはS&P500種株価指数を上回ったが、現在は1.7%と、S&Pの1.9%を下回る水準に戻っている。

野党が先の選挙で内部留保への課税を提案したのは、政治がどれほど企業の現金支出を必要としているかを測るひとつの目安だ。野党は惨敗したが、再選を果たした安倍氏が内部留保を減らす手段を検討することは間違いないだろう。
 
全てがうまくいっていないというわけではない。取締役会の改革を巡る当初の期待は正しかったことが裏付けられた。独立取締役が2人以上いる企業は、2年前には50%強だったが、現在は80%を超えている。日本企業の取締役会は依然、欧米企業に比べて株主重視度がはるかに低い上、取締役がほぼ年配の男性に限られているが、以前に比べると格段に良くなった。


コーポレートガバナンスの指針という「ムチ」とともに新しい指数という「アメ」ももたらされた。そのため少なくとも一部の日本企業はようやくリターンを気にかけるようになった。「JPX日経インデックス400」は、株主資本利益率(ROE)など、株主重視度に関する特定の基準を満たす大企業で構成されている。

 トロント大学のアカシュ・チャットパーディエイ氏とハーバード大学経営大学院のマシュー・シェーファー、チャールズ・ワン両氏の研究によると、そのアメは成功した。基準を満たしていなかった大企業が指数に組み入れられる栄誉にひかれ、ROEを大きく押し上げたのだ。指数入りの資格を得ようとする動きは、日本企業の増益全体の16%を担ったと両氏は試算している。

過去1年の日本株ブームについては楽観的にとらえる見方があり、私はそれに賛成だ。利益は増加し、投資家は企業の経営が改善していると認識している。しかも、株価の始点が低かった。また予想株価収益率(PER)は14.8倍と、依然として米国や欧州より割安だ。利益が増加している限り、株主はインフレと企業の現金放出を待つことができる。

 一方、懐疑派は以下のように主張するかもしれない。並外れて景気刺激的な金融政策が失業率と生産に驚くほどの効果を及ぼしており、正社員はなお賃金よりも雇用の安定を重視している。人件費をコントロールできている間は、企業には生産性向上に投資する動機がほとんどない。現金を退蔵する古い習慣はしぶとく生き残っているため、企業が得た余剰現金の大半はバランスシート上に積み上がっている。

本当の皮肉屋なら、株価上昇は単に、日銀の大盤振る舞いのせいで米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和が緊縮的に見えるためだと説明するだろう。日銀は10年物国債の利回りをゼロに固定しており、国内上場投資信託(ETF)の約3分の2を保有している。株価が上昇するのも当然だ。

 ただし、これら3つの説明はいずれも日本売りの理由にならない。日銀は当面、国債利回りの上限を撤廃しそうにないし、日本経済の見通しは明るい。非正規労働者の多くに賃上げを求める兆しがあり、これが企業のコストを押し上げるかもしれないが、賃金が上がれば支出を押し上げ、インフレに貢献するはずだ。株価にはプラスである。

日本株について懸念すべき理由として最も明白なのは――過去2カ月の右肩上がりの上昇を受けた短期的な反転は別として――為替変動の影響を除外してしまえばアベノミクス始動以降のパフォーマンスが米国や欧州の株と大きく違うようには見えないことだ。世界的な大手企業の株価は、本国政府の政策よりも世界経済の好不調に大きく左右される。そのため日本も他国と同様、世界的な後退に影響を受けやすい。

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